2023 年3 月2 日に DJI Mavic 3 Enterprise(以下 M3E)用の新しいファームウェアがリリースされた。
M3E を既に使用されている方はご存じだと思うが、DJI の ENTERPRISE 製品では、マッピングミッション時の地形追従飛行は、これまでの様に一度一定高度によるマッピングミッションを実施して DSM
(デジタルサーフェスモデル/あるいは DEM デジタル地形モデルなどと呼ばれることもある)を作成して、その DSM データを DJI PILOT2(DJI Enterprise 製品専用の飛行アプリ)へ取り込んで新たにミッションを行う必要はもうない。
Martice300RTKも M3E も去年 11 月のアップデートでASTER GDEM V3 オープンソースデータ(地形高度モデル)を DJI PILOT2 アプリ(スマートコントローラ)でダウンロードしてミッションプランが作成出来るようになった事で、地形追従飛行が格段に簡単でかつ効率的に行えるようになっている。
Fig.1 DJI PILOT2 アプリのDSM インポート画面
Fig.2 スマートコントローラがインターネットへ接続され
ていると自動的に計測範囲の地形高度モデルがダウンロードされる。
Fig.3 ダウンロード中の画面
Fig.4 リアルタイムにマッピングミッションに反映される。
無料でダウンロード出来るこの地形高度モデルは、国内のデータにおいては国土地理院が公開してい るものだと思われるが、当然ながらそれは過去の実測データをもとに作成されているため、現状と一致しているかは定かではないし、そのモデルには植生や森林、構造物や鉄塔など障害物等のデータは含まれていない。
よって使用する際には、十分な安全確認を行い、十分な離隔距離(対地高度)を確保した上でミッションを実行しなければならない事は言うまでもない。
だからこの機能を用いたとしても、例えば対地高度 25m(M3E での地形追従ミッション時の設定可能最小値)の低高度でいきなり地形追従ミッションを行う事は危険だから出来ないだろうし、そんな低高度の地形ミッションを実施する場合には、ダウンロードする地形高度モデルではなく森林や障害物をきちんと反映した今現在の正確な DSM(デジタルサーフェスモデル/表面モデル)が必要となり、正確な DSM は事前に飛行させて現地のデータを取得する以外に今のところ方法はないだろう。
ん?、なんだ、じゃあ結局一回事前に飛行しないといけないの?・・・と思うだろうか。
これまでは、その事前の DSM 作成のための飛行は、効率と安全性の観点から出来るだけ高い一定の高度で飛行させるが、撮影エリア内に大きな高低差がある場合には対地高度 150m 以下という法規制 があるために飛行場所と高さに応じてフライトを何回かに分けるか、場合によっては地理院の高度モデルから高さを拾ってウェイポイント機能で飛行高度を変えながら無理やりマッピングミッションを作るとか、あるいはサードパーティ製のアプリを使ってプランを作成して KML 出力してまた取り込んで、などしなければいけなかったはず。
そもそも写真測量用の撮影においては、山や森林部は写真によるデータ化が困難であるため、基本的には裸地における撮影のケースが一般的で、あまり山間部の高低差のある現場での飛行に対するニーズは大きくはなかったかもしれない。それでも SfM 解析の観点から考えると出来る事なら被写体までの距
離は常に一定であることが望ましいが、地形追従面倒くさいから少しくらいの高低差では使わないだろう。
しかし、これが LiDAR 計測(Zenmuse L1)や、写真測量でも目的が詳細な 3 次元点群や 3 次元モデルとなると断然被写体までの距離(対地高度)を一定にして、かつある程度低高度で飛行しなければならなくなる。加えて LiDAR 計測は山間部での測定ニーズが非常に高い。
この自動(ダウンロード)地形追従機能を使えば一瞬で、しかも誰でもより安全に地形追従ミッションが実施できるし、そうする事で正確な地形追従用(DSM 用)の写真をより簡単に取得出来るようになるのだ。
Fig.5 M3E とスマートコントローラ
Fig.6 M3E 全面
この事は DJI でさえ、さほど大きくアナウンスなどはされていないが、実際に地形追従ミッションを行った経験がある方にはここを簡単にしてくれる事がどれだけ助かるかは容易に想像出来ると思う。
低高度の地形追従でなければパソコンを一切開く必要なく地形追従ミッションが完結するのだ。この便利さを一度味わってしまうと、従来方法への後戻りはもう出来ないだろう。
ただその地形追従機能はいくら便利で有効であったとしても、これまでは標準的な 2D マッピングミッションでしか使用が出来なかったのだ。
だから、空撮写真から高精度で高精細な 3 次元点群や 3 次元モデルを作成するために非常に有効な
スマートオブリークミッション(一度のマッピングミッションで真下写真を含む最大 5 方向の斜め写真を自動的に、しかも最速 0.7 秒間隔で写真をバシャバシャ取得する DJI の恐るべき機能)が地形追従に対応したら、無敵なんだけどねって思っていたところ・・・
ついに、この度のアップデートでスマートオブリークが自動(ダウンロード)地形追従に対応しました! しかも新製品発表に合わせた実装や大々的に PR する事もなく、単なるいつものアップデートに合わせてシレっと実装してくるところが相変わらず憎らしい・・・
まずは今回 M3E シリーズのみの対応となるが、追って M300RTK にも次回のファームアップで必ず実装してくるはず。
Fig.7 今まではスマートオブリーク(図中ではスマート傾斜)をON にすると地形追従機能(図中では地形フォロ
ー)は使用できなかった。
Fig.8 新ファームウェアよりスマートオブリークをONにしても地形追従機能がON に出来る。
Fig.9 コントローラがWi-Fi に接続していればこれまでと同様に任意エリアの高度モデルを自動的にダウンロ
ード出来る。
Fig.10 スマートオブリークミッションでも地形追従が可能となった。
しかも、M3E のスマートオブリークミッション・・・M3E のカメラは、固定式でシングルオペレーション限定のため、Zenmuse P1 のようにカメラのパンとロール回転に制限がある(M3E はカメラのパンとロ ールの動きが実質出来ない)ため、スマートオブリークミッション実施の際には 1 フライトではなく、いわゆるダブルグリッド(縦と横で 2 回飛行する)しなければならないというハンデはあるものの・・・
Fig.11 スマートオブリークミッション(地形追従)1 フライト目画面
Fig.12 スマートオブリークミッション(地形追従)2 フライト目画面 画面下のH.S.(飛行速度)に注目して欲しい
スマートオブリークミッションは、撮影時の飛行速度はマニュアルでの設定はできず、飛行場所によって 1 方向だけでよい時(主にミッション範囲外)は早いし、5 方向(P1 の場合/M3E は最大 3 方向)撮影する時(主にミッション範囲内)は遅いスピードに自動的に可変する。
M300RTK の飛行スピードは、ミッション範囲内に入ると早くても秒速 1~2m で撮影していたが、この M3E、撮影方向が進行方向の 3 方向のみで、画角が 24 ㎜と P1 と比べて広いから枚数的には有利とはいえ、エリア内でも秒速 7.6m???地形追従しながらですよ・・・
高度変更も一切停止することなく行い、動きも非常にスムーズだ。対地高度は 50m で進行方向のオーバーラップは80%ですけど・・・って、言葉は悪いですがホント馬鹿ですかってくらい早いんですよ・・・そ んなに早く動くと写真ブレませんか?シャッタースピードの設定値、ホント気を付けて下さい・・・
これは推測になりますが、縦横と 2 回フライトしたとしても同じ写真枚数の計測エリアであれば P1 より M3E の方が早いかも・・・
ホント恐るべし、M3E・・・センサーサイズが小さいので解像力では当然 P1 には及ばないけど、その分圧倒的な機動力と利便性、マイクロフォーサーズの高性能なカメラと APAS5.0 含めた飛行安定性の高さなど、他にも数多くのただただ感心する機能の数々・・・ホント期待を裏切らない奴なのである。
今回のアップデートでは、スマートオブリークミッションだけでなく、これまでは地形追従機能が使えなかった、コリドーミッション(基線線形ミッション)や通常のオブリークミッション(斜め 5 方向ミッション)にも同様に自動ダウンロードを含めた地形追従機能が使えるようになり、より柔軟で高度なミッションプランをパソコンいらずで、いとも簡単に作成できるようになっている。
Fig.13 コリドーミッション
Fig.14 オブリークミッション
最後にもうひとつ M3E の新しい機能を紹介したい。それはリアルタイム地形フォローと言って、去年のアップデートで既に搭載されていた機能ではあるが、こちらも今回のアップデートで大きくブラッシュアップしてきた。
このリアルタイム地形フォローは、正しいかどうか定かではない地形モデル(決して否定しているわけではない。無いよりかは断然マシだし)や一度飛行して作成した DSM モデルなどは一切使用せずに、搭載されたビジョンセンサー類を駆使して、文字通りリアルタイムで対地高度を維持しながら飛行するモードである。
正直なところこれが本来障害物回避を含めた地形追従飛行のあるべき姿ではあるとは思うが、搭載できるセンサーやコストの問題など様々な観点から見ても、まだ現実的な実用レベルにおいては、未だ発展途上の技術であることは否めないだろう。
去年の搭載直後は、設定出来る対地高度は最低でも 80m だったし、高度調整時の飛行スピードも安全重視でお世辞にでも実戦で使用できるとは思えなかった。
それがこの度のアップデートで対地高度は 30m まで設定出来るようになり、高度調整時の動きも通常の地形追従ミッション時の動きと遜色ないほどスムーズに動作するように改善されているようだ。
それでもこのリアルタイム地形フォローは、比較的緩やかな地形のみでの使用を推奨されており、まだ 高低差が大きな斜面や山間部での使用は依然として制限されるかもしれないが、今後のアップデートや本機能を応用した次期モデルへの期待がますます高まる非常に有効な機能なのである。
Fig.15 リアルタイム地形フォローの設定画面 飛行ラインが紫色で表示される。最低高度が 30m から設定出来るようになった。
Fig.16 リアルタイム地形フォローを有効にしたマッピングミッション 通常のオブリークミッションを除く、スマートオブリーク、コリドーミッションでも使用出来る。
最近他メーカーの有力な対抗機種と言われている製品を間近で確認できる機会があったのだが、知れば知るほどに M3E の技術力に裏付けされたその合理性の高さを実感ぜずにはいられなかった。
これからも DJI Enterprise 製品に対する期待はますます高まって行く事だろう。
株式会社神戸清光 DJIインストラクター 藤井達也
Fig.17 L1 用の対空標識をM3E の離発着台にすると平地がない場所でもハンドキャッチなしで離発着が安全に行える。よほどの腕前の持ち主でない限り、手動で着陸させるより自動帰還に任せた方が正確に同じ場所への着陸が可能だ。これはリアルタイムRTK とビジョンセンサーによる高精度着陸機能がなせる技であるが、DJI の技術力の高さにはいつも驚かされる。